風景で構造化する建築、
風景を構造化する建築

本計画は、元造船所跡地に建つワイナリー「瀬戸内醸造所」のレストランを併設した製造販売拠点。醸造所が掲げる、「旅するワイナリー」を体験として伝える物語と風景の構築が求められた。そこで、時間と共に移ろう海と島並、山と空が見渡せる瀬戸内らしい敷地特性を活かし、見学ツアーやカフェ利用などの気軽な滞在、バーベキューやコース料理などの様々な飲食、大小の式典など、様々な過ごし方が屋内外での展開する多様な居場所群を目指した。

2棟の建築ボリューム、植栽と造船所の廃材で構成した蛇篭壁や盛り土によって、海と一体化したまとまりのある広場をつくった。前面道路から海岸線まで真っ直ぐ延びる軸線は、この広場を貫通して、海と山の風景を対比的に接続すると共に、大屋根ゲートによる空と島並のフレーミングで、アプローチの高揚感をつくっている。また、35mの傾斜した大屋根は、瀬戸内の水平線を強調し、山並みへ視線を誘導する。建築屋内外で起伏する地面や床面、小上りや段々デッキ、カウンターといった居場所と共に、周辺環境の特徴的な風景への視線の誘導、開閉する空間密度や屋内外が一体化した広がりを生成している。醸造棟のデッキ材による緩やかなや階段は海を眺めるベンチとなり、2階バルコニーは新設された醸造所と元造船所の遺構、遠くの島並みを一体的に見下ろす視点場となる。全艶塗装の厨房ボリュームとシルバーの鋼製屋根は、海と空の移ろいを強調し、塩害対策の焼杉外装は、瀬戸内の記憶を想起させる。また、広場から山並みを望むと、建築によって前景の街並みは省略され、背景の空と山の稜線だけが現れる。象徴的な大屋根は、様々な目的や居心地を提供する空間と風景を重層させ、一つの連続した大らかなブランド体験をつくっている。

瀬戸内の海と山、元造船所の遺構など、敷地内外にある様々な物語と風景をひとつ一つ取捨選択し、取り込むことで導かれた空間体験である。それは同時に、この空間体験を通じて、既存の風景の見え方を再編集する建築空間であるといえる。

瀬戸内醸造所
三原市のワイナリーと竹原本社

地域間の回遊と交流性を誘発する micro public network

瀬戸内を「旅するワイナリー」を目指す瀬戸内醸造所は、竹原市と三原市にまたがって事業拠点を構えている。各拠点がバラバラの目的地になるのではなく、その2拠点の空間体験とこれを結ぶ国道 185号線の島並みの風景を一体的に捉えたブランド体験の生成を目指している。ここで求められる空間体験は、各拠点が個性を持った唯一の体験であると同時に、全体としてまとまりのあるブランド体験である。本計画では、地域の個性的素材を転用し、新しい価値に転換する「ワイン」の手法を採用し、「土地をめぐり、土地を味わう」体験を通して個性と統一感のある物語を両立している。 商業空間でありながら地域交流を支える瀬戸内醸造所は、2つの自治体を中心に瀬戸内全体の新しい循環と産業の創出を視野に入れた広域連携の地域拠点であり、弊社が全国で手掛けている、地域の回遊と活動を誘発する民営による公共的空間とそのネットワークである「micro public network」の実践といえる。

Data Sheet
  • クリエイティブディレクション
    SUGAWARADAISUKE建築事務所 (菅原大輔)
  • コンセプトデザイン
    SUGAWARADAISUKE建築事務所(菅原大輔、山本明弥香)
  • 建築設計
    SUGAWARADAISUKE建築事務所 (担当:菅原大輔、山本明弥香、中尾有希/設計・監理)
  • 構造
    TECTONICA INC. (担当:鈴木芳典、鶴田翔、本間万理(元所員))
  • 照明計画
    灯デザイン(早川亜紀)
  • 設備
    ZO設計室(担当:伊藤数子 黒木晴子)
  • 外構
    TREEFORT(石川洋一郎、長谷川愛美)
  • 空間サイン
    6D(木住野彰吾)
  • クライアント
    瀬戸内醸造所株式会社
  • 施工
    株式会社中国工業開発
  • 写真
    楠瀬友将 + 阿野太一
  • 場所
    広島、日本
  • 設計期間
    2020.04-2020.09
  • 工事期間
    2020.09-2021.03